土地の風土が創り上げた人々の匂い。旅先で見かけた、そんなちょっとした時の流れが僕は好き。


by iro-tavi

記憶の写真

a0078807_14434284.jpgボルネオ島の東側に点在する幾つかの島の中にシパダン島という、とても小さな島がある。おそらくダイビングをする人以外で、この島の名前を知っている人はそうはいない?そんな島である。僕がシパダン島に訪れたのは今から2年前。いろいろな情報が飛び交う中、残念にもこの島の保護という理由から入島が禁止される数ヶ月前であった。僕は一人、夕方のビーチを歩いていた。空は刻一刻と茜色へと様相を変え、海をも包み込んでいた。そんな中、コテージのテラスで夕日を眺めていた老夫婦が目に止まった。もちろん彼らとは会話など交わしていないし、名前さえも知らない。でも僕は、もう戻ることの出来ないこの空間に時を同じくした、そんな共鳴感みたいなものを老夫婦に感じ、シャッターを押していた。シパダン島は今現在も閉鎖中だと聞いている。でもその時の感情は、もうこの目で見ることが出来ないかも知れないシパダン島の夕日と共に写真の中に残っている。

【マレーシア・シパダン島にて】
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# by iro-tavi | 2006-07-23 18:08

休日

a0078807_96296.jpg早朝便で到着した僕は眠気との戦いの中、1人ビーチを歩いてみた。それは、旅人・ローカルを問わず、若者が集い、老夫婦が散歩する、そんな誰からも親しまれ続けて来たワイキキビーチの匂いを感じたかったのだと思う。暫く散策した後、太陽の日射しをたっぷりと吸収した背中が目に止まった。彼はちょうど海からあがって来たばかりなのだろうか、真っ黒な背中を流れる雫がそのことを連想させる。僕は今日の1枚目をその背中と決めたその時、彼の横に女の子が寄り添い、何かを話し始めた。「パパ、海、どうだった?」っと話しているかは分からない、でも、ファインダー越しに見えていたその2人の情景からは仲むつましい親子の会話をしているように感じ取れた。そして僕は、真っ黒な背中のアップからズームレンズの焦点距離を動かし、親子の休日へと主題を変えてシャッターを押した。もう、その時点で眠気などなくなっていた。

【ハワイ・ワイキキビーチにて】
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# by iro-tavi | 2006-07-18 16:51

重なった思い

a0078807_8483028.jpgホイアン滞在最終日、僕には心残りがあった。それは渡航前に担当のH氏から「以前、ホイアンを訪れた時に雰囲気のあるおばぁちゃんを見かけたんだけど、そんな写真も撮ってきて貰えますか?」の言葉にである。それは、とても漠然とした投げ掛けであり、答えはたぶん人の感情の数だけある・・事実、僕はその依頼に添える写真を撮れないでいた。いや、正確にいえば、このホイアンの町柄、そんな雰囲気のある老婆が少なくなく、シャッターを押せないでいたのだ。そんな中、初日に見かけた物売りの老婆がどうも気になり、結局、最終日の最後のカットを、そしてH氏の依頼のカットをこの老婆に決め、ホイアンを後にすることにした。後日、今回の写真をH氏に見せた時「私が言ってたのもこのおばぁちゃんです!」と驚きの声があがった。それは、H氏の心の中だけにあった思いが、写真の中で蘇った瞬間であった。撮り手として妙に嬉しく思えた瞬間であり、こんな小さなことが僕を成長させてくれている。

【ベトナム・ホイアンにて】
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# by iro-tavi | 2006-07-17 19:17

ナショ・ジ

a0078807_16521892.jpg頭の片隅に残っている絵。それはどこかで体験した記憶、または書物などで見た間接的な記憶のどちらかの場合が多い。タイの首都バンコクから車で4時間ほど東へ向かったところにアンコール王朝時代のクメール遺跡群が散らばる地域がある。どの遺跡もクメール独特の繊細な彫刻が施され、その美しさはアンコール遺跡と遜色ない素晴らしいものばかりである。そんな遺跡で1人の僧侶を見かけた。僕は目線で追いながら心の中で僧侶が遺跡の入口で立ち止まりこちらを見ている絵を頭で描いてた。それは、今思い起こせば、タイへの渡航前に「ナショナルジオグラフィック」に掲載されていた写真と同じ絵図。僕はたぶん記憶の片隅にその写真を記し、追い求めていたから。それはその写真を見た時に僕自身の心が揺さぶられたものだったから。そして今、その想いが目の前で現実というかたちで、僕のものとなった。

【タイ・ムアンタン遺跡にて】
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# by iro-tavi | 2006-07-13 18:43

老人と遺跡

a0078807_13354846.jpg「あの老人はひと時も離れず、この寺院を守って来たんですよ」現地のガイドさんが話してくれた。僕は今、アンコール遺跡群のひとつタ・プロム寺院に来ている。この寺院はガジュマルの木が寺院の一部を飲み込み、その圧倒的な自然の力と栄枯盛衰を忍ぶ朽ち果てた寺院の趣が旅人の心を誘う、僕もそんな1人である。事実、その自然の脅威と時を感じざるを得ない遺跡には心が奪われる。それにしても、この寺院と時を重ねてきた老人とは・・彼はどれだけの事実やどれだけの物語をこの寺院と共にして来たのだろう。僕の興味はタ・プロム寺院本体よりも、いつの間にか、その老人に向いていた。が、そんな僕の心とは裏腹に、老人はとぼけ顔を崩すことなく遠くを見つめている時間だけが流れていた。

【カンボジア・タ・プロム寺院にて】
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# by iro-tavi | 2006-07-11 15:05